7月31日  汗で戻す

初日、ふりだしに戻ったあとは、「汗で戻す」。

乾物を汗で戻します。

 

ずいぶん前のことです。

マラソン大会で履いた汗まみれのランパンを洗濯してもらおうと母に出すと、ぎゃあああ! 悲鳴が聞こえました。補給食としてポケットに入れていたレーズンが、汗でぶよぶよに生き返っていたのでした。

 

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昨日も暑い中走り続けたため、6リットルもの水分を給水しました。汗かきのわたしは飲んでも飲んでも乾きを感じ、干物になりそうでした。

 

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既に焼けきったと思っていた肌もまたさらに黒くなって、限界はないんだと思いました。限界なんてないってことはもっと別の方法で知りたかったです。

 


さて、各家庭から乾物を融資していただいて、汗で戻すための乾物ドレスの作製です。

いりこと唐辛子の冠、ドライフルーツネックレス、イカブラ、高野豆腐と乾燥糸こんにゃくのベルト、昆布椎茸春雨かんぴょう麩からなるスカート、寒天を脚に巻いて、乾物カンブーツ。

 

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切干し大根の「大根足」

 

 

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干されアイドルの日光浴です。

 

ひっそりと暗い戸棚の奥のほうで忘れられていることの多い乾物類をかわいそうとも思っていたのですが、彼らがいざ乾きものになる時には太陽の光をさんさんと浴び、湿らないようよくよく面倒をみてもらっていたんですものね。

だからまあ…一度は日の目を見ているんだから干されてもまあ、仕方ないか…。

 

乾物を柔らかく戻すのが目的なので、外気で乾燥しないよう、室内でトレーニングしました。

使用したのはスタッフさんにお借りした健康器具「レッグマジック」。内腿に、効きます。

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まずライスペーパーがあっというまに戻りました。

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紐はかんぴょう。


一挙に、生春巻き人間、かんぴょう巻き人間、昆布巻き人間になれました。

「ロールキャベツ男子」とかいう言葉もあるし(一見草食だけど実際は肉食の男性を指す)、高齢化の今、「昆布巻き爺や」「生春巻き婆や」などという渋い流行も来るのではないでしょうか。

 

背中の汗がもったいないので、スカートをマントのように羽織って、乾物戻しに追い込みをかけました。

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胸のスルメ臭に加え、昆布が戻るにつれてダシの香を負けじと放ちはじめ、個性溢れる旨味素材たちのダシの競演が熾烈でした。

 

乾物同士を繋いだり、体に巻きつけたりと大活躍だったかんぴょうが戻りきってだるだるになり、衣装が崩壊したところでちょうど終了時間になりました。各種いい感じに戻ってますよ!

 

            −−−今日のボツネタ−−−

汗で戻した乾物を食べて、戻す(ゲロ)

 

 

----本日の学芸員赤ペン-----------------------------------------------------

 

くるみちゃんの実際の経験のように、乾物が汗で戻っちゃった経験のある方はいらっしゃるかもしれませんが、乾物を汗で戻そうと思ったことがある方はあまりいないのではないでしょうか。

そして、「乾物を汗で戻す」と聞いて、その滑稽さに思わず吹き出す一方で、「うわぁぁぁ・・・・(まじかよ…)」と思われた方はたくさんおられることだろうと思います。まっとうな反応です。

 

くるみちゃんの作品には、ときどきこのようなギリギリライン際の作品があります。見る人によっては「セーフ」だったり「アウト」だったりする、生理的なギリギリさ。本作は、将来若木くるみ回顧展が開催されるようなことがあれば、「ギリギリ作品」の代表的なものとしてコーナーの一角を占めることでしょう。

 

ではなぜギリギリなのか。

 

本作の場合は、まずもって「汗」が素材になっている点です。汗自体は、扱い方によってはさわやかにもなるし感動を呼ぶことだってあります。その一方で、なにやらこもった、すえた匂いが伴っているような、どうにもさえないイメージの象徴として登場することもあります。

しかしくるみちゃんの汗は、そんな文学的な「汗」とは違って、実際に目の前で湧き出てしたたり落ちる、物質としての汗です。身体から分泌されたものとしての「汗」。誰もがかき、普段は特に意味づけすることのない「汗」が、「乾物(食べ物)に吸わせる」という用途をもったとたん、ついさっきまで肉体を構成していた液体であることを主張し始めます。そして肉体の内外の境界があいまいにぼやけてくるのです。

そうやって生(せい)の生々しさを目の前に突きつけられることによって、私たちは時に不快(恐怖に近いかもしれません)と感じ、時に強くひきつけられてやまないのではないでしょうか。くるみ作品のギリギリさは、まるで人の身体の内側を覗いてしまったような秘め事感から発しているのだと思います。

さらに今回「ギリギリさ」をより強めたものは、戻りかけた乾物たちです。「汗で戻った」ということを抜きにしても、半戻りの乾物の、中途半端なぶよぶよ感は何とも気持ち悪く(食べ物さんごめんなさい!)、さまざまな乾物の匂いが入り混じって、生き返りかけた未確認生物みたいな不気味さがありました。すごくおいしい物なのはわかってるんだけど!

 

とはいえ、乾物ドレスを身にまとった姿はなかなか力強く、どこかの部族の姫みたいだったし、レッグマジックをガコガコさせたり、スクワットをしたりする姿は、なんだかいけにえをささげる儀式をしているみたいでもありました。そして何だかかっこよければかっこよいほど浮かび上がってくる滑稽さ。だってするめのブラジャーだもの!

 

ところで、乾物は実にたくさんの種類があり、うまみと栄養の塊です。その分値段も高価。今回の乾物ドレスの材料となったもので言えば、くるみちゃんは「各家庭に融資していただいた」と書いていますが、実際は買ったもの(かんぴょう、寒天、ドライフルーツ等)だけでも約3000円、スタッフ宅からかき集めたもの(昆布、するめ、しいたけ等)を合わせれば、5000円以上にはなるでしょう。材料費1日2000円というのは昨年の道場から引き続くルールですから、明日は材料費0円に抑えられるようにお願いします。

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子