ソロボウラー 8月14日

企画量産の必要に迫られてスタッフさんが提案してくれた「プロボウラー」。

それをどうしろと…? と思わせるただのキーワードに、「善三擬態」で活躍した友人、和久井さんが「くるみちゃんがボールになって坂道を低いほうじゃなくて高いほうに向けてころがっていく」とナイスアイディアを足してくれて、それ! それすっごいおもしろい! と盛り上がったところまでは良かったのですが、「自分はボールになってお客さんがピンになるのか? じゃあボールを投げるのは誰なのか?」などと細部を詰めるうちに、「投げる役、ボール役、ピン役の3体が必要なので実現は困難」という理由で一旦はぽしゃった企画です。

それが、休館日にもかかわらず自分が湧いた山になるというそれごと制作道場の一コマみたいだった3日前に、「自分ひとりで3役やればすべて解決!」とひらめいたことからこの日の企画が叶いました。

わたしが投げる、わたしが転がる、わたしが倒れる。

その名も、ソロボウラー

 

昨日、耳なし芳二として一心不乱に書をしたためている間、庭では炎天下の中スタッフさんがわたしの輪郭をかたどったピン作りを進めてくださっていました。

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f:id:kurumi-zenzo2014:20140815034410j:plain←芳二

 

準備は今朝も続きます。

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ピンを自立させ、かつ抵抗なくフラットに倒すためにはどんな仕組みの支えが必要なのか。

今年も、制作道場の骨組みを支えるチーム+zenの造形力が冴え渡りました。

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一方わたしは馬鹿でもできる簡単な色塗りを…。

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昨日買ったももひきにスプレーをぶっかけています。

プレイヤー、ボール、ピンそれぞれの役割の違いを強調するため、オセロのように表裏を白黒に塗り分けているところ。お腹側がプレイヤーの黒で、倒れ込む背面にはピンを模した白に赤い二重ラインを。前転でつなぐボールの時には白黒のブレンドに見える算段です

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庭の砂利道にピンを打ち付けて、ようやく準備が整いました。

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見よ! 直立不動の、段ボール製とは思えぬこの凛とした美しさを。

 

いざ、プレイボール!

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手にボールを填めていると仮定して、助走をつけ、いーち、にーの、さん! で投げる動作に入ったのですが、あ、あれあれ? ボウリングってどう投げるんだっけ?? ボールがいつまでも手から離れていきません。お客さんの応援(急かし)を受け、投げる動作はとりあえずうやむやにして、「ボールになります!」と宣言して前転を開始しました。

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小学生の時、大の苦手だったマット運動で唯一人並みにできたのが前回りです。しかし美術館の庭の傾斜は思った以上に手強くて、足をきれいにそろえて着地できません。ピンが居並ぶポイントまでは長い道のりでした。

ようやく向こう岸までたどりつき、等身大段ボールピンを前にして、姿勢をのばしたまままっすぐ棒のように倒れ込む…はずでしたが、くらくらする目眩にまかせて乱暴になぎ倒してしまいました。

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6本中倒れたのは3本。

それでも観客の拍手喝采を受けて、フィニッシュの決めポーズは怠りません。(ピンらしく白いハイネックを上までのばす)

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気をとり直して、二投目。

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今度もボールを手放すタイミングがわからない…。

前回りは上達しました。

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ピンもピンらしく背筋をピン!

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ばたん!

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スペア!

 

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ソロボウラー、デビュー戦にしては上出来です。

 

ただ、朝には自分たちが段ボールだということを忘れて素晴らしい立ち姿を見せていたピンたちが、とうとう己の素材を思い出してしまったらしく、自力でふんばることを断念し始めました。所詮段ボールは段ボールでした。絵に描いた虚飾…。

準備二日間、プレイ時間10分にて大道具崩壊。

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一人三役のソロ案を思いつく前は、ピンには倒したい対象として「弱い自分」だとか、「なりたい自分」だとか、そういう意味付けができると山下さんにプレゼンしていたのですが、昨日の耳なし日記で思わず内面を吐露してしまった今日は羞恥心に苛まれて、自分探し中の専門学生みたいな真似をする気にとてもなれず、ピンの裏には、押し倒したい芸能人の顔を描きました〜!

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具体的には、沢尻エリカとか蒼井優とかです。

思い切りダイブして、押し倒した。ざまあみろと思った。昨日の自分に…。

 

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雨休憩をはさんで、再びトライ。

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わたしが倒すまでもなくへなへなにしなだれてくるピンたちを、スタッフさんが体を張って守ります。

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ぶつかり稽古のようになるのだろうかと恐れていたら、抵抗するピンはなく、全部あっけなく倒れていてわたしはすごくモテている気がした。どんな美女も思いのままだと思った。けれどもスタッフの方々が気を使って倒れてくださっていたようでした。ぬか喜び。

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それから、ごろんと寝転がって青春していた山下さんが急に息を吹き返して飛び起きたので驚いた。山下さんは、「さっきシャッターが光った!!」と隣の神社の人影を鬼気迫る形相で指差し、砂利を蹴散らして一目散に駆け出されました。すごい、ご老体にむち打ってまで走られるとは、ご自分のパンチラ写真を差し押さえるためかしら? と思っていたら、スタッフ全員がピンの補助にまわったために撮れなかった、記録写真を見せてもらうためで、職業意識のたまものでした。動機を疑って申し訳ありませんでした。

山下さんの世紀の全力疾走のおかげで、神社観光中だった一般の方のデータを快く貸していただけました。写真は望遠で撮ってあって、なんか、美術館目的じゃない方にもおもしろがってもらえたと思うとうれしかった。あの、わたしの、「制作道場」スペースは入場無料なので、どうぞお気軽に、近寄ってご覧ください……。

でも、やっぱり望遠ぐらいの距離感がちょうどいいのかな、とも思いました。

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神社の高台から収められた一連の茶番劇(素晴らしい画質)

 

午後は、明日の企画が出てこず、閉館ぎりぎりまで苦しんだ。

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-------本日の学芸員赤ペン-----------------------------------------------------

 

はー、老体にムチ打って走った甲斐あって、いい写真がいただけました。快くご提供くださり本当にありがとうございました。

まあそれはさておき、わたしは、「老体」なんて言われても全然気にしませんけど、後ろに私の同世代がずらっと控えていること、よもやお忘れではないですよね。去年の「食の細い年配者」発言(

休館日2 8月12日 - 若木くるみの制作道場の後、何が起こったのかを思い出してみてはいかがでしょうか (ギラリ) 。

 

さて、本日の作品、一人ボウリングのソロボウラー。投・転・倒と三拍子そろった名選手の登場に、思わず腰砕けの大爆笑でした。ちょっと遠巻きに館内から見ていた来館者の方も、たまらず縁側に近づいてきての拍手喝采。

 

この作品のおもしろポイントの一つは、ボールが坂道を転がりのぼっていくところです。「くだり」ではなく、「のぼり」。ニュートンもびっくりの引力無視(くるみちゃんの友人:和久井さん発案)。人力でなければ不可能です。当館の庭の勾配をうまく利用した逆走ボーリングは、当館の庭をもっとも広がりある眺望で利用でき、かつ館内からも館外からも全体像を一望することができる位置でパフォーマンスを展開することができました。おもしろいだけでなく、位置取りとしてもばっちり。

 

ピンとピンの倒れ方もよかったですね。ピンは善三美術館自慢の造形チーム+zenの手によるもの。電気系統以外なんでも作りますから、くるみちゃん、造形の発注はお早めにお願いします。

それからくるみちゃんがピンを倒すパフォーマンスもフラフラになりながらのダイナミックなものでしたが、スタッフがピンを持つ八百長ボーリングもなかなかの見ものでした。くるみボールにぶつかられてみんな倒壊。来館者の皆さんも「美術館の職員って、そこまでやるんだ・・・」という空気を額に漂わせながらご覧くださいました。真剣な大人の遊びです。

 

しかし、あれこれ要素のあった本パフォーマンスにおいて一番笑わせていただいたのは、くるみちゃんのボールの投げ方です。いかにも今からボールを投げますといった雰囲気で腕をぶらぶらするものの、どう見てもボーリングとは思えない、いつ手を離れたかさっぱりわからない変なポーズ。

みんなの頭にも「?????????」。

 

くるみちゃん、ボーリングしたことないでしょ。ボーリングしたことないのに、よくボーリングネタやろうと思ったよね。発想と具現化までの間に断絶がある若木くるみの特徴がよく表れた作品と言えるでしょう。

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子