LOVA&PEACH展 8月22日
今日の企画はこちら。
←ロバのくわえているストローが「&」
タイトルは「LOVA&PEACH展」。
グループ展を展示します。
ロバ&ピーチ。ロバと桃がテーマです。
ラジオ局のお姉さんが寄せてくださった、LOVE&PEACEスピリッツ溢れるこんな素敵な企画書が原案です。
ラブのEをAに変えてロバ読みしたらどうかな、とスタッフの江藤さんが提案してくれたところから盛り上がり、ロバ&ピーチいつやるの? とせかされていたのですが、なかなか具体案まで進みません。放課後、皆で真剣に会議を行いましたが、話し合いは難航を極めました。ラブ&ピース観は個々人で大きく異なるため、「暗黙の了解」のような共通項を共有しづらいからです。
それならば、無理に意見を擦り合わせなくったって、ひとつにまとまらなくったって、みんなが、それぞれ、いろんな作品を出せばいいよね!
そんなピースフルな発想から、ロバピー案は「LOVA&PEACH展」のかたちで生かされることに決まりました。
その会議が、約一週間前のこと。
作品制作の時間を考えて締め切りまでには一週間の猶予を設け、この日の実行を決めました。
出品作家はわたしひとりではありません。
美術館スタッフ(通称、+zen)、美術の杉先生、友人、身内、前日たまたま居合わせたお客さんも含め、総勢12人による展覧会です。
決してわたしが皆に出品を強要したわけではありません。スタッフの方々も弱りながらも乗り気でしたよ!
とは言え、やはりわたしたち素人だけの展示では心もとないので、展覧会にハクがつくようなちゃんとした作家の方にも出品をお願いしました。
まず、美術の杉先生には、ご専門の染色作品で参加していただきます。先生はこれまでもちょくちょく美術館に来てお手伝いをしてくださっています。なんか暇そうだし、先生の参加は当然のこととして話を進めていました。断られなくて良かったです。
それから身内。姉と父が、ちょうどロバ&ピーチ前日に小国入りするとのこと。これ幸いと彼らにも出品を強制しました。姉はとてもいやがっていましたが、何か文章で参戦してもらい、父にはロバになってもらえばいいと思いました。
それから、善三美術館にゆかりある遠方の友人、ワタリドリ計画や、和久井さん(善三擬態参照)にも。それぞれ個展準備や仕事で忙しいので、「無理だと思うけど…、」と控えめに出品を申し出たのですが、快く依頼を受けてくれました。
姉と父も無事到着し、グループ展当日がお休みのスタッフの方がコラージュ作品を提出してくださり、夜中には山下さんをはじめとしてスタッフの皆さんから続々と作品の進行状況メールが届き、朝には9時ぴったりにヤマト便が届いて(制作道場で使用する物資は、小国町内で手に入るものに限るというルールは忘れてい ました)、梱包を解く手が震えました。ここにロバ&ピーチ展の未来が詰まっていると思いました。
展覧会の主催者の気苦労がよくわかりました。これからは締め切りは守ろう…。
友人は急な依頼にも関わらず超速で作品を送ってくれたのに、自分だけ朝になっても作品未完成のままで、自分主催のグループ展なのに肩身が狭かったです。
集まった作品の展示方法(平面ならば壁面、立体なら展示ケース、布作品は吊るす、床置き、etc)の検討、位置決め(作品同士が嫌な感じに干渉し合わぬよう、一個一個がよく見えるよう)、額装、ライティングなどをしているうちに時間は飛ぶように過ぎていきます。
作業が一段落したのは1時頃だったでしょうか。
全員くたくたでした。
冒頭のLOVEでPEACEな企画書を寄せてくれたお姉さんが展覧会を見に来てくれて、「次に展覧会がある時はわたしも出品したいです!」と目を輝かせておっしゃってくださいました。お姉さんに見ていただけて心からうれしかったです。
それでは、とても長いですが出品作の数々をどうぞお楽しみください。
まず、自分の作品を数点、本人の解説つきで。
「王さまの鼻はろばの耳」若木くるみ
小窓から鼻ロバを出す。
「さがしものはなんですか?」若木まりも
(作画はくるみ)
さがしものはなんですか?
白やぎと黒やぎが、桃の木がゆれる窓辺でお茶のしたくをしていました。
ふと外を見ると、遠くからだれかやってきます。
「あれ、めずらしいな、あれは……ろばじゃないか。」
黒やぎがいいました。
「うん、ろばのようだね。」
白やぎも答えました。
「すみません、王さまがびょうきになって、桃をさがしてこいというおふれが出たんです。桃をわけていただけませんか。」
ふたりはもちろんとうなずきました。
「どうぞどうぞ。うちの桃は、最高級の桃ですよ。」
じまんの桃を枝からもぎとり、さっそく切ってすすめます。
みずみずしい汁がしたたり、白にほのかに紅がさして、それは美しい桃です。
ところがひと口味見したろばは、困った顔に。
「これはおいしいけれど、桃じゃありません。もっと甘くて黄色くて……」
「?」
「ほら、給食のフルーツサラダに入ってる……」
「??」
「ほら、安いクリスマスケーキで、上はいちごなのに切ってみたら中はっていう……」
このへんで白やぎと黒やぎは、ははあんと思いました。
「……ほら、ファミレスのプリンアラモードとかに必ずついて」
「わかった、わかったよ、それをあげましょう。」
そういって白やぎは食品棚にひとっ走り。
「これですこれです、ありがとう。」
ろばはよろこんで帰っていきました。
「これでよかったのかなぁ。」
遠ざかるうしろ姿を見送りながら、ぽつりと白やぎがいいました。
「しょうがないよ、かんづめの桃しか知らなきゃ、そりゃああれが桃さ。」
黒やぎはつぶやきます。
最近まで自分もカニカマをカニだと思っていたことは言えませんでした。
「それにしても、図鑑とか本とかで見たこともないのかな、ほんものの桃ってやつを。」
「はは、ろばはばかだって言うけど、ほんとなんだな。」
ふたりは苦笑いをかわしました。
と、ふとろばが去った足あとに目を落とした黒やぎが、顔いろをかえました。
「このひずめ……ろばって、こんなだったっけ。」
ろばならば、馬のなかまだから、なんとなくわかるはずなのです。
そのひずめは、ふたりが見たこともない、奇妙なかたちをしていました。
白やぎはこわごわ、黒やぎを見ました。
「あれはろばだっていったのは、きみだよ。ちがうのかい。」
「わからない。ぼくだって、図鑑で見ただけなんだ。」
もはや豆粒のように小さくなったうしろ姿を、ふたりはぼうぜんと見つめるだけです。
「じゃあ、あの生き物は、いったいなんだったんだ。」
風が吹いて、窓辺の桃が、ひときわ強く香りました。
姉の文章に触発されて描いたクレヨン画の大作は恐ろしげなことになりました。
気を取り直して、
「シロバニアファミリープレゼンツ LOVA HOTEL」若木くるみ
「LOVA SONG」若木くるみ
ファーストロバからロバイズオーバーまで。
「今、冴える老いドル 週末カフェイン もも(いろク)ロバー、Zen」若木くるみ
皆さんよくコーヒーを召し上がっておられます。決め台詞の「ゼーン!」で声をそろえたいです。ももクロを知らない方は調べてみてください。
額装するとかっこよかったです。
「サロバ湖」若木くるみ
細長いかたちが特徴のサロマ湖は、もともとロバのかたちに似ていました。北海道の湖です。構想を伝え、制作はほぼ杉先生にしていただきました!
「ファツマ•ロバ」父
←姉
※ファツマ•ロバは、アトランタ五輪女子マラソンで金メダルを取った選手です。
以上、若木家でした。お粗末様でした。
ここからは制作道場を支えるスタッフ4名の作品。
「ロバとモモのドナドナ」山下弘子
「ロバニラ弁当」えとうなおみ
「ロバネピーチ(バネポーチ)」梅木あづさ
「桃尻ロバ」時松美佳
美術の杉先生の型染め。
「クルミ童話」杉枝里奈
友人、お客さんなどの作品。
「桃太郎」麻生知子
(うしろは中国農民画の桃園、麻生氏私物)
「ロバのもも」武内明子
「ロバート氏のプライベートビーチ」白肌4
「これが私のLOVA&ぴいち。」和久井礼子
「桃のひらき/ロバンバルトによる」山下通
撮影のクオリティにばらつきがあってすみません。
出品作家のひとりが「グランプリの発表を楽しみにしているよ。美術館買い上げとかあるのかな。来年は、白肌4アートの風、30日間バンジーライブをやりま す。」とかいう、躁状態としか思えないことを言っていて、こわいのでグランプリの決定権は山下さんに委ねようと思いました。
山下先生、採点よろしくお願い致します。
ちなみにわたしは、「ロバのもも」にびっくりしました。もも→脚の腿とは考えつかなかったなあ。このロバは、「産まれた時に桃色で、名前もモモでもーもーと鳴く」そうです。
調子に乗って悔恨。
-------本日の学芸員赤ペン-------------------------------------------------------------------------------------------------------
制作反省日記をご覧のみなさん。
今日の作品「LOVA & PEACH展」をご覧になって、頭に???が浮かんだ方も多いのではないでしょうか。
何でグループ展?出してる人たち誰?制作道場じゃなかったの?
ご指摘ごもっとも。
でもよくご覧ください。
これは、「「LOVA & PEACH展」という展覧会ではなく、「「LOVA & PEACH展」という展覧会の形を取った作品」なのです。作品の展覧会は普通ですが、展覧会が作品というのはあまりないのではないでしょうか。少なくとも制作道場では初の試みであり、これまでになかった作品になったと思います。
それがつまりどういうことかというと、「LOVA & PEACH展」というグループ展だったら、出品作品1点1点はそれぞれの作家の作品ですが(あたりまえですね)、「「LOVA & PEACH展」というグループ展という作品」だったら、出品作品は(それぞれに当然作者はいるけれど)、発電ルームランナーや電飾やダンボールや絵の具や馬のお面と同じポジションということになります。つまり、若木くるみの作品の一素材であるということです。もちろん、この素材をいかにイメージ通りのものを選ぶか、いかに質のよいものを選ぶかが大事であり、今回、各種作家のみなさんが出品してくれた作品は、良質の絵の具が発色がいいように、この作品(「LOVA & PEACH展」)の仕上がりやリアリティをぐっと高めるものになりました。本物の展覧会みたいだった。みなさん本当にありがとうございました。見ごたえありました。+zenの作品も、まるでサンクス※にあっと驚く掘り出し物があるように、それぞれの得意分野を活かした素材を提供できたと思います。
そしてもう一つ、きっとみなさんの胸に去来しているだろう思いはこれではないでしょうか。
「なんで若木くるみがLOVE & PEACE?」
そう、確かにLOVE & PEACEなんてくるみちゃんからは決して出てこないテーマです。本作品は、くるみちゃんの日記の中で紹介されている企画書がもとになって発想されたものですが、ではなぜそれがくるみちゃんの目にとまったのかというと、それがあまりにもくるみちゃんの中になかったものだったから。それならやってやろうじゃないのと作家魂に火がつき、猛烈変化球でそれに応えることになったわけです。もちろんLOVEでPEACEなスピリッツを知らないわけではないものの、それと自分の人生が関わることがあるとはくるみちゃん自身も思っていなかったはず。ある日そこにロバと桃が登場するまでは。
LOVE & PEACEがLOVA & PEACHに変化したのは、単に文字面が似ていて組み合わせが面白いというだけの理由であり、ロバにも桃にも全く意味はありません。「LOVA & PEACH展」はそのロバと桃をあたかもすごく大事なキーワードのように扱ってそれにまつわる作品を展示するものです。つまり、1点1点の出来を鑑賞するのではなく、「LOVA & PEACH」などというばかげたキーワードのもとで大真面目にやっている展覧会をメタ視点から見るという作品なのです。言い換えると、展示してある作品だけでなく、1点1点の作品を「これがいいね」「これステキ」などと言って見ている私たちもろともが「LOVA & PEACH展」という作品の一部というわけです。
実際それぞれの作家作品はさすがのクオリティで展覧会の充実度をぐっとアップさせてくれたし、+zen作品は、見ている人達に「私も出品したい!」と思わせるに十分な創意工夫と手作り感あふれるものでした。そしてそれぞれがその会場の中で最もよく見える場所と方法で展示されたときの空間の仕上がり。展覧会場を作るのって本当に楽しい。作品はどれもウィットに富み、見ている私たちはつい笑顔になっていました。
そこでハッと気がついた。これがLOVE & PEACEでなくて一体なんであろう。ロバと桃なんて馬鹿げたキーワードの展覧会にみんなで全力で作品を作る、この行為がラブでなくてなんであろう。そもそも制作道場なんて収入に直接つながるわけでもない展覧会を夢中でやることがピース以外のなんであろう。もっと言えば、美術館が存在できるということが、ラブとピースそのものではないか。大勢で集うでもなく、タイ染めのTシャツを着るでもなく、ある夏の日にくるみちゃんの作品を見て笑いあう。
これが 私の LOVE & PEACE。
坂本善三美術館 学芸員 山下弘子
※サンクスとは、小国町にあるホームセンターで、思いもかけない品揃えと価格で日本全国の若手現代美術家から熱い注目(当館推測比)を浴びている。