メリーゴーラン 8月23日
メリーゴーラン。
「ド」を書き忘れたわけではありません。
走る「ラン」です。
走り回る、世界最小メリーゴーランドです。
ホルスタインはシマウマに
自分の腰回り、前後左右に、4頭の馬の首を生やします。
後頭部や横の顔を駆使して自身に4面の顔をつくったら、4体が、それぞれ馬にまたがっているように、見える。
……はずでしたが、見え…ない。
親子木工教室の講師で来られていた作家の上妻さんをつかまえて手伝っていただきましたが、そもそもこちらで用意した材料と構想が穴だらけで、メリーゴーランドになりそうな予感がしません。
ホースの中に針金を通して芯にする
うまく生えません。
と言って、他に良いアイディアもないので、よれよれのまま走りはじめました。くるくる回りながら進み、一小節ごとに屈伸をいれるのがポイントです。
が、見えない、とにかく見えない、どこからどう見てもメリーゴーランドには見えません。山下さんが露骨に眉をひそめていて、久しぶりの大惨事でした。
キリンの首がもげたので、少年にキリンを持ってもらいました。こういうアクシデントがあるとついついいい写真がとれちゃって、こうしてまたわたしは、別に失敗してもいいかと増長してしまう……。
「どぎゃんしたと」と嘲笑されていたメリーゴーランでしたが、実際にビデオで確認してみると、動くたびにお面がぼよんぼよんしていておもしろかったので、可能性はあると信じてどんどん改良を加えていきました。
メリーゴーランドの屋根にあたる傘にはにんじん(姉に買いに行ってもらった。58円)をスライスしてぶらさげ華やかにし、日傘にしか見えないと指摘された傘自体もビーチパラソルに替え、好き勝手うなだれる馬たちの首はぎゅっと体に巻き付けて固定したところ、すべてがうまくまとまって、奇跡の復活を遂げました。
上妻さんさようなら! ありがとうございました!
BGMはディズニーのインスト「イッツ•ア•スモールワールド」をスマホでリピート再生していたのですが、「どこまで見ていいのかわからない」「動きのバリエーションがない」と飽きられた上に、姉から「まさにイッツ•ア•スモールワールドって感じだよ。」と皮肉られたのがかなしくて、もっと視覚的に「小さな世界」であるオルゴールを出してきました。
お客さんにねじを巻いてもらい、わたしはメロディーが流れている間だけ稼働することにします。
待機場所としてテントも出して、三角旗(これもお客さん制作)で周囲を彩りました。
久々の晴天にも助けられて、ほほえましくのどかな、小さな世界のできあがり。
結果、メリーゴーランドとはまた違う何かではありましたが、首がぼよんぼよん跳ねている様子には、何か異様な生命力を感じるし、がっちり作った造形よりも視線は釘付けになったと思います!
皆さんが思っているであろう、なぜ肝心要の馬の首にこのような馬の首らしからぬ細い素材を用いたか、疑問にお答えしますね。
どうしても「ホース」で作りたかったから…。
馬=ホース、っていう、そこだけでした。
----------本日の学芸員赤ペン-----------------------------------------------------------------------------------
くるみちゃんの日記を読んで、改めて、「この作品、本当に馬に見せるつもりだったんだ・・・」と思いました。企画書の段階で既に、描かれていたイメージ図はなにやら不気味な生き物のようでしたから。
はっきり言ってこの作品、日記だけ見た人からすれば、もしかしたら現場で目撃した人でも、「なんちゅうふざけた造形や!」と思ったかもしれません。その辺にあるものを使って、一瞬でさささっと作ったものだろうと。確かに写真で見るとそう見える。
でもちょっと想像してみてください。
(以下なんちゃって村上春樹風。春樹ファンの皆さますみません。)
そのとき、頭を剃りあげた大きな女の子が僕のとなりに座った。驚いたことにその女の子は、頭の横にも後ろにも顔がある。僕はなるだけ正面の顔だけを見るように注意しながら彼女のほうを向いた。すると彼女は横の顔にかかった髪を丁寧に指で払いながらこう言った。
「ねえ、メリーゴーランドを作りたいの。」
僕はひどく面食らって、こんなときにどんな表情をすればいいのかさっぱりわからなかった。
「メリーゴーランドって、あの、オルゴールに合わせてきれいに飾られた木馬が上下しながら回転する、遊園地にあるあれかい?」
「ううん、遊園地のやつとはちょっと違うの。馬は4頭いて、どれも身体はホースでできているの。だって、馬と言えばホースでしょ。頭はお面よ。お面はキリンでもロバでも何でもいいわ。そして、乗るのは私だけ。ほら、わたしって4つの顔があるでしょう?一人が1頭ずつの馬に乗るのよ。」
「君の4つの顔が一人ずつってこと?」
「もちろんそうよ。だって、あなたも小さい頃、お母さんと一緒じゃなくて一人で乗りたかったでしょう?」
「それはそうだけど、でも君の身体は一つしかないじゃないか。どうやって4頭の馬に乗るんだい?」
「それはあなたが考えてくれなくちゃ。そのためにここに座っているんでしょう?」
やれやれ。
僕はすっかりぬるくなったビールを一口飲んで、4つの顔を持つ大きな女の子がメリーゴーランドに乗ってくるくる回っている姿を想像しようとしたが、残念ながらそれはそんなに簡単なことではなかった。
(以上回想終わり。無駄に長文にしてすみません)
上記は単なる私のフィクションですが、限りなく現実に近いと思ってください。
見た目の造形は簡単そうに見えても、実際はそう簡単ではないのです。
ちょっと考えただけでも、ホースとお面はどう固定するのか。ホースを馬の首のように造形するにはどうするのか。四股の大蛇のようにするつもりのホース同士はどう固定するのか(この時点で既に馬ではない)。その馬に乗るって言うけど、四股にどうやって乗るのか。またがっているように見せるにはどうすればいいか。乗ってそのまま庭を走るなら馬とくるみちゃんをどう固定するのか。強度はどうするか。
普通には思いつかないような突飛なアイディアを思いつくくるみちゃんですが、それを実際の形にする過程がすっぽり抜けていることが多く、何度も申し上げているとおり、発想と具現化の間に険しい峡谷が横たわっている。
今回その峡谷に橋を渡してくれたのが、ものづくりの人、木工作家の上妻利弘さんでした。細かい技術的なことを+zen造形チームに伝授して下さいました。たまたま上妻さんが来てくれてる日でよかった。そこからさらにくるみちゃんのイメージに合う形になるまであれこれと改良を重ね、いざ庭に出てメリーゴーランが動き出したのは、やがてお昼になろうかというときでした。
その後も、すぐにだれてくるホースの首を何度も修正し、傘をビーチパラソルに改良し、ニンジンのスライスで装飾を施し、音楽を変え、一応完成だろうと思えたのは午後3時位だったのではないでしょうか。
どこにも何にも作り方が書かれてないようなものを、ただただ作家のイメージを頼りに作り上げていく。今回は作家のイメージ図もまさにイメージでしかなかったという五里霧中の創意工夫、みんなよくがんばったと思います。
しかし、もし他館でパフォーマンスとして再制作するようなことがあれば、強度とビジュアルについて再検討が必要です。協力してくれる人とイメージが共有できるように、自分のイメージに近づけたビジュアルイメージをきちんと図面化し、素材などもよく吟味してから出品するように。
(再び春樹風)
四つの顔を持つ大きな女の子は、4頭の馬にまたがり、楽しそうにくるくる回っていた。でもそれはとうていメリーゴーランドと呼べる代物ではなかった。
「私のイメージしていた形とはずいぶん違うけど、でもこれはこれでおもしろいわ。なにかギリシャ神話の女神みたいじゃない?なんといったかしら。たしか・・・」
「メデューサ?」
「そう。私こんなのが見たかったの。私が今まで見たことのないような面白いものが見たかったのよ。」
「どうやら僕は合格のようだね。」
「もちろんよ。今度は何を作ってもらおうかしら。考えておくわ。」
僕は肩をすぼめながら彼女に小さく微笑んだ。
坂本善三美術館 学芸員 山下弘子