真っ赤なお鼻の確認印 8月29日

今年もお客さんから制作道場に使う企画書を募集しました。

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何が作品のヒントになるかわからないからと、喉から手が出るほど欲しかったみなさんのアイディアです。予想外にたくさん寄せていただきました。

なんとしても実現したいと意気込んでいた、あの企画、この企画。

まだあれがある、あいつもまだできていない! 

もう少し肉付けしてから、もう少し寝かせてから、と熟成ボックスに入れておいた魅惑のアイディアたちを置き去りにして、日々はあっという間に過ぎていきました。

 

なんと、もう、あと、3日!!

メリーゴーランとかやってる暇があったら、あの人のあれやればよかった! 

そう思ってももう後の祭りです。

 

残りの企画、どうする。

限られた日にちの中でどれを選択することもできず、やっぱり「確認印」やらなきゃ…、今年も…。

心は決まりました。

 

去年は、正面の顔を使った「確認印」でした。

自分の顔を判にして、企画書に次々お見舞いする、鼻からバタンと倒れこんで激痛に耐える企画です。

 

 

今年の「鼻」と言えば、「耳」……。  

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というわけで、今年は横の顔を企画書でサンドすることにしました。

やっぱり痛い方法で…。

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耳に朱墨をつけて、企画書を貼ったボードに両側から強打される、確認印。

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ビヨーン、バチン! 山下さん大喜び。

 

1セット押印したら、次の企画書に貼り換えてまた繰り返します。

f:id:kurumi-zenzo2014:20140830084250j:plain朱墨をつけて

f:id:kurumi-zenzo2014:20140830084301j:plainボードをセット。

 

企画書と企画書を両脇のスタッフが持つ。

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ゴムがのびきるまで引っ張って、

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3、2、1、

バチン。

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わたしの耳めがけて企画書が突進して来るので、見事紙面に耳のかたちが印されるというわけです。

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次はアップで。

 

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(写真家の友人が撮影に来てくれて画面の明度が一変しました。)

 

去年と違って今年は自分のタイミングで押せないので、実際の痛みよりも、いつ来るか、今来るかと歯を食いしばっているときの、痛みの予感のほうをリアルに感じました。

企画書と向かい合っている顔はわたしの横側のただの絵なので、肝心の企画書の内容をぎっと見据えることもできなくて、ただ、企画書が飛んでくるって思うだけでもう耳が痛い。ほんとは鼻なんですけど、やっぱり耳が痛かったです。

 

 

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制作道場前半はアイディア不足に泣き、後半はアイディアの出過ぎに泣きました。

ゲスト赤ペンの竹口さんによる「駆け込み寺」道場以降、企画を考えるための道筋のようなものがわたしにも少し見えるようになって、コツをつかめた、すごく楽になったと心底よろこびました。でも、並べてみたアイディアを見比べてみるとどれも、いかにも自分から出てきましたって顔をしていて、別に自分から生まれたものにそんな興味ないっていうか…。

「コツをつかむ」って、つまりは「慣れる」ということなんだと気づいて、うなだれるしかなかった。

それが竹口さん言うところの「自分の語り口になる」ということなら、なんか……人には「それのどこが悪いんですか」って言えても、自分に対してはそんなお気楽な慰め言えないものでした。

すごい、わたしは自分のことをすごくかわいいと思っているから採点が辛くなるのだと思った。写真うつりが悪いって騒ぐ女と同じです。自分の何もかもを全然ウキウキ肯定できない。出てきたアイディアを、「これが自分の真の姿」だと受け止められない。

 

企画書に残された赤い耳は、皆が出してくれたアイディアすら斜に受け止める自分のいやしさを恥じて、燃えているようにも見えました。

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もう、やめよっかな…。いろんなところに顔つくるの。

 

今の自分に必要なのは、描き変え可能なたくさんの顔を持つことではなく、まず正面の自分の顔をつかむことなのではないか。

 

…くさいと思われたくはないんですけど。

でもなあ。

くさい自分をくさいと受け止めて、他人さまのアイディアを受け取るのはそれが出来てからでしょと思ってしまったのでした。

 

わたしには、荷が重かったかな。

30日間自問他答。

自答も他答も受け止めきれないまま、超速で横滑りしていった今年の確認印でした。

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---------本日の学芸員赤ペン-----------------------------------------------------------------------------------------

 

今年も募集したお客様からの企画案。

数としては昨年よりずっと多かったと思います。一人で何枚も何枚も書いてくださった方。遠くからメールでアイディアを送って下さった方。中学生のワークショップ時に書いてもらったワークシートも加えると、かなりの数になります。くるみちゃんに何かやらせてみたい、くるみちゃんなら何かやってくれるんじゃないかという期待のこもった企画書から、自分が普段持っている関心事をくるみちゃんを通してみんなと共有したいという企画書、はたまたくるみちゃんを休ませてあげたいという企画書まで、内容は実に多岐に渡りました。

と同時に、どの企画にも共通しているのは、「自分の頭の中をくるみちゃんのフィルターを通してみてみたい」という思い。

そのアイディアを考えて下さっている間、きっと頭の中はくるみちゃんに乗っ取られ、そのアイディアを見たらくるみちゃんの頭はその方に乗っ取られ。企画書は、頭の中のハイジャックでした。

30日間1日1作の制作道場ですが、30をはるかに越えるアイディアが寄せられ、たとえ募集アイディアばかりをやっても全部は実現できないという数になりました。決して一人からは浮かび上がってこない量と幅のアイディア。

ということはつまり、決して一人では受け止めきれない量と幅でもあるのです。

中にはどうしても実現してみたかったものもあったようだし、顔の見える方が出してくれた企画書は何とかして一つでも実現に結び付けたいと考えていたようですが、物理的にもどうしても実現は難しかった。

そんな企画書に今年もまたお礼の気持ちを込めてくるみ印(じるし)の確認印を押すことにいたしました。ハイジャック、本当にありがとうございました。

 

そこで+zenが作り上げたのが、この拷問器具。

確認印、企画書を書いてくださった皆様に代わり、私どもの手で、厳粛に執行いたしました。

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子