影 8月6日

ネット不具合につき更新遅れております。申し訳ありません。

ただいま改善策を模索中です。

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明日の企画どうする?

早くもアイディアに行き詰って、昨日の午後は重苦しい雰囲気が漂いました。

スタッフさんの「くるみちゃんがあやつり人形みたいにお客さんの動作を真似る」という案に、うーん…お客さん美術館でそんなにおかしな動きしないし…わたしが真似する必然性もあんまりないかなあ……。などとぶつくさ言ってた時です。

動きをトレースしたいなら鏡設定にしたらどうかなあ、分身になればいいってことですもんね? ん? 分身? 影になって鏡に映る…? …影? 影!? 影になって寝そべってお客さんにずるずるくっついてけばいいんじゃん!

 

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というわけでなんとかぎりぎりで通過を果たしたアイディアが、影。素晴らしいのは体をすっぽり覆う黒い衣装さえあれば即実行できるところで、黒い服なら各家庭に揃っているし、これでなんとかまた一日つなぐことができた…と全員ほっと胸をなでおろしたのは言うまでもありません。

 

ただ、お客さん全員に強制的にくっつくのはさすがにどうかということで、影着脱所を用意して、希望者のみが参加できるようにしました。

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体育座りの影が画面右隅で待機しているのがわかりますか?

 

最初にお越しくださった女性の方が、戸惑いながらも影スポットに足を合わせてくれました。

動きの鈍い影を思いやってゆっくりゆっくり歩いてくださった女性は、「どのように感じましたか?」というインタビュアーとして最低なわたしのぼんくら質問にも、「影って大変なんだなと思いました。これから影を見る時はその気持ちも考えることになりそうです」と、柔らかな笑みで答えてくださって、あなたこそ太陽そのものだと思いました。影の出なくていい曇り空でも、うっかり影につきまとわれるのではないでしょうか。

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引き戸のちょうど影になっている暗がりに隠れてお客さんを待っているのですが、本当に影になじんでしまって気づかれないので、影、めちゃくちゃしゃべりました。

「影のあるあなたが好き」

とか、

「あなたの影になりたい」

とか。

「くっつかせてください」

みたいな。

いずれにせよストーカーっぽくって、でも影に課せられている役割ってそういう不気味さだと思いました。影本人も影らしくあろうと常に光源の方向を意識して動きます。光は影のことなど気にしていないのでしょうが。その関係性も切なく、影のある人が好きという自分の気持ちは正しい、っていうか影そのものが好きっていうかつまりわたしは自分自身が大好きでした。

それから提出した企画書を見ると、影のある人が好き、という箇所に「わたしもです」という山下さんの赤ペンが入っていて、修学旅行の夜のように好きな異性のタイプで一盛り上がりできそうだった。

 

山下さんのわき腹と地面の間に影が手を差し入れているのがわかりますか? すごい密着度で、ねじれていた関係も親密に戻りました。(注:フィクション)

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影には背広がよく似合います。

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町長です。

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幽体離脱

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影が鈍重でお客さんの動きになかなかついていけないので、こちらで先導させていただくことも。

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これは影が置いていかれてのびているところ。

 

変わった写真欲しさで、逆立ちできる少年かんくんを呼び出しました。

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一年たってかんくんはさらにモテ倒しているらしく、ハリウッドスターと接見するような気持ちで迎えました。わたしはもうあと一年後には恐れ多くてかんくんの目を見て話せなくなると思ったので、これが最後とばかりにその輝くご尊顔を黒いタイツ越しに重たく見つめまくって、自分の影としての優れた資質に感動しそうになりました。

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少林武術をやっているというかんくんはさんざん逆立ちをしてくれた後でなんとそっとロキソニンを服用していて、かかとを痛めているとのこと。それってもう影の部分まで完璧じゃないですか! ますます惚れた。かかとの完治をわたしは望まない。

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オフショット。

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ツーショット(ハート)。トリミングした。

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 影らしく見せるための技術的な問題としては、暗い場所では黒く、明るい場所ではグレーに、と色調もコントロールできればよりリアリティが出たなあと思いました。

 

 寝そべったままではお客さんの動きが見えないので、上体を少しだけ起こして無理な姿勢をキープするのが腹に効いたようで筋肉痛です。お尻を持ち上げたり背中を反らせるのもいいトレーニングになりました。

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床をごろごろ転がる回転運動で酔ってしまいましたが、それだってウルトラマラソン中に内臓が弱って気持ち悪くなった時のシミュレーションになったはずです…。

 

-----本日の学芸員赤ペン--------------------------------------------------

 

決して切り離せないものの象徴として、また、人には言えない秘密の、それでいて真の姿を現すものとして、古今東西、絵画はもちろん、映画や文学の世界でもさまざまに描かれてきた「影」。

光を浴びている人物の脇に、気づかれないようにひっそりと寄り添い、普段は目を注がれることのない物言わぬ「影」。

 

しかし。

 

そんなタイトルを背負っていながら、この存在感はどうだろう。

「今日はあなたの影になります。」

「影、装着しませんか。」

まず影自らの営業。

そして、お客様がよく訳が飲み込めないうちに影装着所に足を置いたとたんささっと足もとに憑き、その上「前に歩いて下さい」「壁のほうに進んで下さい」「違いますこっちです」と先導した挙句、「こういうのもできますよ・・・」と念を送りながら腕を上下させて、暗に「手を動かせ」と指示を出す。

積極的でリーダーシップのある影でした。

 

企画書の時点では、もっとストーカー的な、それこそ陰のあるひそやかな作品になる可能性もなくはなかったと思うのですが、何しろ影の動きが激しすぎました。完全に影がスポットライトを浴びるという、まさに形容矛盾。ぜひいつか動画でお見せしたい。

そんなふうに力強い存在感を放つ影ですが、写真に撮ると非常に影らしさを発揮していい仕事をします。寝た影、踊る影、逆立ちの影、ブリッジの影、幽体離脱の影、作品鑑賞の影など、時間、天候、光源を問わず自由自在でポータブル。加えて生暖かい生体反応あり。

一家に一影、いかがですか。

 

坂本善三美術館 学芸員 山下弘子